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誰もが肉体的・精神的に健康な老後を送りたいと思っていることでしょう。今回は、痴呆とはどんな状態か、どのような原因でおきるのか、また予防法はあるのか、それがテーマです。 |
01 |
痴呆とは? |
02 |
大脳の機能分化 |
03 |
痴呆の診断 |
04 |
痴呆診断(補助検査) |
05 |
痴呆の原因疾患 |
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(1) (2) (3) (4) |
06 |
痴呆の治療 |
07 |
痴呆の予防 |
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(1) (2) |
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痴呆とは、『一旦完成された』脳が、何らかの病変で広範囲に障害され、そのために認識・了解・判断・機転・決断などの脳の神経心理機能がうまく働かなくなり、その結果、家庭生活や社会生活に支障をきたした状態』と、定義される。 |
解説 |
要するに、痴呆とは判断力が鈍って家族や周囲の人に迷惑をかけてしまう状態です。しかし、当の本人にとっては、自分自身の判断力が低下しているとは、決して思えないのです(判断力が低下しているから当然ですが)。ここにトラブルの元があります。元々立派な大人として生活していた人が、自分の子供や家族に理解できない理由でいろいろと文句をつけられたり注意されたりするからです。社会人としてのプライドもありますから、我慢できなくなって腹をたてたりします。日常生活を自力で送ることができないほどの痴呆では、幼児程度の判断力しかないものです。家族としては、幼児に接るように優しく対応していくしかありません。 |
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解説 |
大脳の働きは、部位ごとにある程度決まっています。痴呆を考える上で、簡単に大脳の機能分化を理解しておく必要があります。
人間の大脳は、他の哺乳類と比較して前頭葉が大きいのが特徴です。前頭葉の後端は、手足を動かす運動領野になっています。その前方の前頭前野は、前頭葉の大部分を占め、人間の知的活動上、重要な役目を担っています。
一方、前頭葉以外の部では、外から入る情報(嗅覚・視覚・知覚・聴覚など)がまず認識されます(感覚受領野)。それら情報が前頭葉に送られ、そこで情報処理がなされ、次に何をすべきか瞬時に判断し、他の領域に指令を出し、具体的な行動がとられます。
例えば、ボールが自分に向かってきた場合。後頭葉の視覚野でそれを捉え、その情報が前頭葉へと送られます。前頭葉でこれを避ける必要があるかどうか瞬時に判断され、体の各部位を動かすように運動野へ指令が送られます。この運動野からの指令が体の各部位に伝わり、手足を動かして回避行動がとられるのです。つまり、前頭前野は脳の中にある司令部そのものです。
痴呆にはいろいろなタイプがありますが、おおまかに分けると、前頭前野の機能がまず低下するタイプ(アルツハイマー型痴呆)と、感覚受領野そのものやそこから前頭前野への経路に障害が生じ、いわば前頭前野が情報不足に陥って機能不全となるタイプがあります(脳梗塞後など)。
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痴呆の診断は、種々の知能評価スケール(テスト)に基づいて行われる。ただし、言語機能に障害がある場合は、痴呆と判断される可能性があり、判断にあたっては注意しなければならない。 |
解説 |
痴呆の診断に用いられるテストには、MMS・長谷川式簡易知能評価スケールなどがあります。
いずれも言語を用いたテストであるため、失語などで言語機能に障害がある場合、正確な判断ができません。
失語があって周囲の人との意思疎通がほとんどできない場合でも痴呆だとは限らないのです。 |
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1 |
頭部MRI検査 |
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痴呆に特徴的なのは、脳萎縮である。しかし、痴呆の早期には萎縮は見られない。
脳梗塞や主要血管閉塞が痴呆の原因のことがあり、その有無を検索する。 |
2 |
採血検査 |
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甲状腺ホルモンの欠乏、電解質異常、低血糖などで、痴呆様の症状が出現することがある。 |
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解説 |
1) |
頭部MRI検査 |
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痴呆が進行してくると脳萎縮がみられるようになります。アルツハイマー型痴呆の早い段階では脳萎縮は認めず、症状の進行とともに前頭葉・側頭葉の萎縮がみられるようになり、最終的には大脳全体に及ぶ広範な萎縮がみられるようになります。
痴呆の中には脳梗塞やその他病変が原因の場合があり、MRI検査ではこれら病変に加えて、脳血管の異常(狭窄や異常脳血管)の検出も可能です。 |
2) |
採血検査
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甲状腺ホルモンは、人の活動性に影響を与えるため、その低下では痴呆様の症状が出現します。またNa(ナトリウム)などの電解質異常、低血糖でも同様に痴呆様症状が出現します。採血検査でこれら異常の有無をチェックします。 |
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1) |
アルツハイマー型痴呆 |
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40歳代で発症する何らかの遺伝子異常が疑われるものと、60歳代以降で発症し緩徐に進行するものとがある。
後者については、原因がはっきりしていないが、廃用(使わないこと)による大脳機能低下が主要な原因との見方もなる。 |
2) |
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脳血管性痴呆 |
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主要脳血管の閉塞あるいは狭窄により、大脳の広範囲な領域で血液供給の不足が生じ、大脳全体の機能低下が痴呆症状を引き起こす。 |
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解説 |
1) |
アルツハイマー型痴呆 |
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最も多いタイプの痴呆です。40歳代のものは稀でほとんどが60歳代以降で発症します。発症した人達の背景をみてみると、定年を迎えて社会的活動が減り、数年かけて痴呆になる場合や、それまで長い年月生活していた地域から遠隔地へ引越しして数年を経て痴呆が生じてくる場合があります
。
こういったことから、社会的活動が減って、ぼんやりとして日常生活を送ることで、前頭前野を使用する機会(物事を判断したり、計画・立案・創意工夫すること)が減ることで機能が衰えていくという考え方もあります(足・腰を使わないことで筋力が落ち、歩行能力が低下することと同じ)。 |
2) |
脳血管性痴呆 |
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脳細胞は血液から供給される酸素とグルコース(糖)をエネルギー源として活動しています。この血液供給が一定レベル以下になると脳梗塞になります。脳細胞が正常に活動できる状態と脳梗塞の間には、脳細胞が正常に働くためには血液供給が足りない状態(虚血)が存在します。これが大脳の広い範囲で生じると、手足の麻痺がない急性の痴呆症状が出現することがあります。通常、頚部内頚動脈の閉塞あるいは高度の狭窄がある場合に出現します。早期に脳への血液供給を再構築する手術(バイパス手術)を行うことで、元の状態に復することが可能です。 |
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3) |
慢性硬膜下血腫 |
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軽微な頭部外傷後2〜3ケ月を得て、硬膜下腔に血液が貯留し、大脳を広範囲で圧迫することにより、痴呆症状が出現する。 |
4) |
正常圧水頭症 |
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脳脊髄液が脳室内に貯留し、周囲脳(特に前頭葉)を圧迫することにより、痴呆症状が出現する。通常はクモ膜下出血後に出現する。 |
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解説 |
3) |
慢性硬膜下血腫
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軽く頭をぶつけた(柱にコツンと頭をぶつけるなど)後2〜3ヶ月を経て、脳の外側にある硬膜下腔に血腫が形成された状態です。血腫により大脳の広い範囲が圧迫され機能低下が生じ、痴呆症状が出現してきます。通常左右どちらかの方麻痺を伴っています。比較的簡単な手術で90%の人が元の状態に戻ります。
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4) |
正常圧水頭症
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脳は脳脊髄液で満たされ、頭蓋内に浮かんでいるような状態です。この脳脊髄液は、一定量が毎日生産されて一定のルートを流れ、静脈から吸収されています。このルートのどこかで流れが悪くなり、脳室が拡大してくる状態が水頭症です。通常は、頭蓋内の圧力が上昇し高圧となるのですが、これがあまり高くないタイプの水頭症があり、これを正常圧水頭症と称します。クモ膜下出血後に出現することが多いのですが、原因不明の特発性といわれるものもあります。痴呆・尿失禁・歩行障害が三大症状です。早期に手術を行い、水頭症が改善すれば、症状が良くなる可能性も大です。 |
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5) |
多発梗塞性痴呆 |
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多発性脳梗塞そのものだけで、大脳全体の機能低下(痴呆)を生じるのは、広範囲に大脳が障害される場合か、重要な部位に梗塞が生じる
場合に限られ、一般的なことではない。脳梗塞に廃用が加わって生じてくることが多く、この場合、厳密にはアルツハイマー型痴呆とすべきとの意見もある。 |
6) |
その他 |
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甲状腺機能低下症やうつ病では、痴呆症状がみられることが多い。 |
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解説 |
5) |
多発梗塞性痴呆
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脳梗塞により大脳の広範囲の機能が失われ、痴呆症状が出現してくることがあります。脳梗塞そのものに原因があって発症後急速に痴呆に陥る場合もありますが、片麻痺や失語のため社会活動ができなくなり、前頭前野領域の機能が次第に低下し、数年かけて徐々に痴呆になる場合もあります。この場合、アルツハイマー型痴呆と考えるべきとの意見もあります。 |
6) |
その他 |
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甲状腺機能低下でホルモンが欠乏すると、痴呆様の症状が出現することがあります。うつ病でも、特に老人ではボーッとしていることが多いため、痴呆と間違われることがあります。いずれも内服薬により回復する可能性が高いものです。 |
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1) |
対症療法 |
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中等度〜重度の痴呆では、不穏・異常行動などが出現することがあり、精神安定剤・睡眠剤などで症状の安定を図る。 |
2) |
アルツハイマー型痴呆治療剤の投与 |
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軽症・早期の痴呆であれば、ある程度の効果が期待できる。 |
3) |
原因疾患の治療 |
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解説 |
1) |
対症療法 |
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痴呆が進行して中等度〜重度の痴呆になると、一般家庭での生活が困難になります。尿意・便意が分からず失禁しやすく、また尿意を我慢できず、あるいはトイレの位置が分からずに所構わずに排尿したりします。また、食物と間違えて固形石鹸やティッシュを食べたりします。夜間に不穏状態になって大声を出したり、暴れたりすることもあります。これは、幼児あるいは乳児レベルにまで判断力が低下しているからです。症状によっては、家族あるいは周囲の人達の生活にまで悪影響がでてくることもあり、そのような場合には精神安定剤や睡眠剤などで症状をコントロールします。 |
2) |
アルツハイマー型痴呆治療剤の投与 |
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軽症・早期であればアルツハイマー型痴呆治療剤の内服で効果が期待できます。内服にあたっては、副作用として時に失神・徐脈(脈が遅くなる)があるので注意を要します。 |
3) |
原因疾患の治療 |
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治療により回復の可能性が高い病気もあり、前述したように外科的・内科的治療を行います。 |
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1) |
前頭前野の機能維持 |
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アルツハイマー型痴呆では、まず痴呆症状に先立って前頭前野の機能が低下し(早期痴呆)、ついで大脳全体の機能が低下(痴呆)してくるパターンが多い。この早期痴呆の段階で、脳の活性化訓練を行い、痴呆への伸展を予防する。 |
2) |
動脈硬化伸展の予防 |
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脳の動脈硬化は、脳血流量の低下を招き、痴呆を生じる原因のひとつとなる。禁煙・基礎疾患(高血圧や糖尿病など)の治療・適度な運動などにより、動脈硬化の伸展予防に努める。 |
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解説 |
1) |
前頭前野の機能維持 |
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早期痴呆(前頭前野領域の機能低下)の段階で診断を受けることが重要です。
一般的な症状としては創意工夫する能力が低下してきます。
例えば、それまでは好奇心旺盛だった人が、新しいものにチャレンジすることができなくなり、今まで経験のない料理を作ったり、経験したことのない作業(ガーデニングなど)ができなくなったりします。また、同時にふたつのことを行うことができなくなります。例えば、お湯を沸かしながら洗濯していると、どちらかが疎かになり、やかんを焦がしたりします。こういった状況が長く続くと、治療になかなか反応しにくい中等度〜重度の痴呆になります。
脳の活性化訓練は、この前頭前野の機能を維持する目的で行います。
考え方としては、ちょうど足腰の筋力低下を防ぐためにウォーキングやジョギングをするのと同じ発想です。
具体的には、計画・立案・実行・反省などの一連の作業行うことで、興味をもってできる趣味があれば、それが最適です。与えられた作業をこなしていくだけでは駄目で、自分自身で考えて創意工夫することが大切です。ガーデニング・俳句・囲碁など決まりきった展開にならないものが良いと考えられています。 |
2) |
動脈硬化伸展の予防 |
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脳の動脈硬化が進むと、脳細胞が健康に生きていくために必要な血液量が充分に供給できない状態になります。
これにより脳細胞が死滅していき、痴呆になる可能性が高くなります。
動脈硬化を促す要因としては、高血圧・糖尿病・喫煙・高脂血症があり、これらを正常化することで動脈硬化の予防、ひいては痴呆の予防につながります。
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