監督・脚本■スティーヴン・ソマーズ
製作■ジェームズ・ジャックス/ショーン・ダニエル
撮影■エイドリアン・ビドル
音楽■ジェリー・ゴールドスミス
出演■ブレンダン・フレイザー/レイチェル・ワイズ/ジョン・ハナ/アーノルド・ヴォスルー
1999/アメリカ
あちこちでさんざんないわれ方、B級扱いをされていましたが、あまのじゃくな私は、どこがそんなにB級なんだろうと、逆にワクワクさえしました。
「B級」の定義? 私自身よく分かってないです。低予算? 低予算映画は好きです。技術の向上は称賛に値するけど、「こだわり」と称して無尽蔵な予算の使い方は成金趣味で品がよくないでしょう?
◆ タイトル
絶対、原題「The Mummy(マミー)」(=ミイラ)がいい!
(えっ?こっちの方がB級っぽい、て?)
「ミイラ再生」(監督:カール・フロイント、脚本:ジョン・L・ボルダーストン、出演:ボリス・カーロフ、1932、アメリカ)という元祖ミイラ・ホラー物語のリメイクなのですが、
こっち (これはホラー)オフィシャルサイト(英語)
http://www.themummy.com/index.html
と
こっち (どっからみてもアドベンチャー)オフィシャルサイト(日本)
http://www.toho.co.jp/cinema/hamu/welcome-j.html
の違いが面白いですね。
◆ エジプト
監督のスティーブン・ソマーズ(主な作品:ガンメン/ハックフィンの大冒険/ジャングル・ブック/トム・ソーヤーの大冒険/オリバー・ツイスト/ザ・グリード)
は、ただのミイラ作品ではなくユニークなものにしたかったと話しています。
ミイラも怖いなかに人間らしい表情(元は人間だしね)を加味したり、完全無欠よりもどこか愛嬌のあるヒーローに仕上がっているところが笑いを誘います。
でも十分怖かったですよ。(気持ち悪くもある、うん)
ところがホラーを期待していると笑いすぎ、冒険活劇としては「インディ・ジョーンズ」を意識しすぎ…というのが大方の反応だったようで、ネットでも判を押したようにその指摘が目につきました。
が、舞台は“エジプト”です。私は未踏の地ですが、冒頭の、遺跡になる前の栄華あふれる当時のエジプトの街並み(ほとんどCGだと思いますが)は素晴らしく、映像に吸いこまれるような奥行きが感じられ見事でした!
また、「ヒエログリフ」や「カノピック・ジャー」など、わずかなエジプトの知識を引っぱり出しながらみるのも楽しいものです。
- ヒエログリフ
- http://www.enjoy.ne.jp/~yagi3189/egypt/moji/index022.html
-
- http://www.infoaomori.ne.jp/~yappi/w.history/007orient4.html
ロンドンの「大英博物館」に入って最初に対面するのが「ロゼッタストーン」です。この石の発見がヒエログリフ(聖刻文字である絵文字・象形文字)の解読につながるわけですが、歴史的意義の深さと同時に、その展示の仕方にビックリです。
あの(!)ロゼッタストーンが、ガラスケースに入れられるでもなくポンと無雑作に通路の真ん中に放り出されるという感じで出迎えてくれるのですから。
さわろうと思えばさわれる、でもさわらない。みんながルールを守れば歴史の偉大な発見は表も裏もなめるように目の前10pで見ることができるのです。
パリのルーブル美術館では、「ミロのビーナス」*1が通路脇(展示室じゃないの)に陣取って、その美しい“後ろ姿”を見ることができます。これが実に色っぽいんだなぁ、殿方は必見ですよ。
ここでも“ノー・フラッシュ”(これは絶対!)のルールを守れば彫刻も絵画もビシバシ写真が撮れます。
文化に対する考え方・接し方が、規制が多いわりにはその理解がすすまない日本と随分違うなと思いました。
ただ、ダ・ビンチの「モナリザ」*2だけは切りつけ事件があったことで、ルーブルの雰囲気にそぐわないガラスケース入りの展示となっていました。その前にはロープも張っていたかな? 遠かった「モナリザ」…。
- 太陽神
- http://www.infoaomori.ne.jp/~yappi/w.history/006orient3.html
テーベの守護神アメンはラーと結びついてアメン=ラーとなり、
一躍エジプトで最高位の神に昇格したのです。
ところが、アメンホテプ4世は、太陽神アトンだけを至上の神として崇拝し、
権勢をふるっていたアメン神の信仰を禁止しました。
しかし、この宗教改革は、神官たちによって反発を受け、
わずか10年で挫折し、再びアメン神の信仰が復活しました。
- http://www.sqr.or.jp/usr/akito-y/kodai/16-orient2.html
第18王朝に始まる新王国の時代は「帝国時代」ともよばれる。アメンホテプ3世のあと、子のアメンホテプ4世(位前1380頃〜前1360頃)は10代で王位についたが、首都テーベの守護神アモンの神官の勢力が強く王権をしのぐ勢いだったので、在位6年でテル=エル=アマルナに遷都し、自らイクナートン(アトンに愛されるものの意味)と称し、アモンにかわる太陽神で唯一神であるアトンを創造して宗教改革をめざした。しかし元来多神教であるエジプト人にはなじまず、王の死とともに新宗教は終わりをつげ、再びアモン信仰が復活した。
エジプト人の宗教も多神教であった。主神は太陽神ラーである。後にアモンと結合してアモン=ラーとなり広く普及した。
古代エジプト王国時代のエジプト人は、太陽神ラーを中心とした多神教で、現在のようにイスラム教を信仰するようになるのは8世紀以降になります。
(“アメン”と“アモン”は同一?)
映画のなかでも“死者の書”や“黄金の書”に「ラー」の名前が出てきますね。
また、エジプト学にはまったく疎い兄が必死でヒエログリフを解読しようとして、「最初の文字は鳥の形!」と叫ぶところなどは、心得のある人だったらたまらない場面ではないでしょうか。
- ヘブライ人(ユダヤ人)
- http://www.sqr.or.jp/usr/akito-y/kodai/17-orient3.html
ヘブライ人は、セム系の遊牧民族で、古くはユーフラテス川上流域で遊牧を行っていたが、前1500年頃パレスティナに定着しが、飢饉が起きたとき一部はエジプトに移住した。ヘブライ人は外国人による呼び名で、自らはイスラエル人と称した。バビロン捕囚以後はユダヤ人とよばれることが多い。
エジプトに移住したヘブライ人は、新王国の外国人排斥機運がつよいなかで、奴隷とされ、悲惨な境遇にあった。
蘇ったミイラに追いつめられた男が苦しまぎれに首からぶら下げたさまざまな宗教のシンボルを出して祈る場面があります。
十字架(キリスト教)やら仏陀(仏教)やら……(イスラム教のシンボルである三日月もあったかもしれないけど、よく分からなかった)、当然ミイラに通用するはずはないのですが、「ダビデの星」*3(ユダヤ教)を出してヘブライ語で祈りだした時、相手のミイラ男が「奴隷の言葉か」と言います。
このミイラ、元は司祭の身分なのでエジプト人なのですね。
このようなエジプト人の圧政に苦しむヘブライ人をパレスティナへ導くのがモーセです。そのお話は同じUIP配給の「プリンス・オブ・エジプト」で。
- カノピック・ジャー(Canopic jar)
- http://www.british-museum.ac.uk/egyptian/index.html#caption_3
http://www.enjoy.ne.jp/~yagi3189/egypt/hekiga/index021.html
もともとは副葬品としてのカノピック・ジャー(カノプス)ですが、ファラオのものになると美しい彫刻が施されたり、現在は古代の工芸品としての美しさももっているようです。内蔵が入っているとは思えない……。
ましてその作り方に特上とか並とかあるなんて知らなかったなぁ。
- スカラベ
- http://www.wnn.or.jp/wnn-x/okumoto/fabre/scarabe/scarabe.html
『ファーブル昆虫記』の第1章は“ふんころがし”の話しですよね。懐かしい。
スカラベの大群はCGの見どころ!
カサカサカサカサ、カサカサカサカサ……。
(殺虫剤を吹きつけられたゴキちゃんが死に場所を求めて隙間の暗闇でのたうち回っているような音、とでも…)
このスカラベ達、愛すべきところはみじんもなかった。
肉食はもち論フィクション。
盗掘
http://www.chunichi.co.jp/news2/chu/shunju/9607/960711sj.htm
発見は一七九九年八月。エジプト遠征したナポレオン率いる仏軍の士官が、ナイル河口のラシッド(仏人はロゼッタと聞こえた)で、とりで補強中に見つけた▼もとは神殿にあった石板がとりでの用材にされていた。仏海軍を破った英軍の上陸に備えるとりで補強だったけれど、石材発見直後、仏軍は結局敗北。エジプトからの仏軍戦利品を取り上げた英軍はやがて一点以外はすべて仏軍に戻す。その一点がロゼッタ・ストーンだったそうだ▼ナポレオンはしかし、ストーンの拓本と複製作りを指示ずみ。現物を英国に取られた仏はその後エジプト文字解読に全力を挙げ、一八二二年、仏学者シャンポリオンが遂に成功するのである
「大英博物館のコレクションを見て、戦利品の展示じゃないか、と意地悪を言う人がいますが、英国が人類の宝をふとどきな盗掘から守ったのです。」
とは博物館のガイドの弁。
映画は1920年代、ヒーローはアメリカ人で、ヒロインとその兄は英国人という設定。また彼らと同じようにハムナプトラへ向かうアメリカ人の探検グループが登場しますが、こちらは何ともマヌケに描かれていて、時には“ヤンキー”呼ばわり…。
1840年〜70年代が大英帝国の黄金時代ですから、勘ぐってみれば、お宝探しの冒険家達がエジプトの遺跡を荒らしてるのよ、というメッセージにとれなくもないですが…。
台北(台湾)の故宮博物院*4も素晴らしいコレクションですが、近代中国混乱期に数回の散乱・破壊・略奪の恐れがあったため、北京の故宮から蒋介石が持ち出した成果といわれてます。(…ともいえる)
エジプト同様に敦煌では今なお盗掘が行われているとか…。
- ◆ キャスト
- http://www.tisaweb.or.jp/kurumaza/mummy/cast.html
- ブレンダン・フレイザー
- http://www02.u-page.so-net.ne.jp/qb3/miyuwa/mummy.html
主な出演作:ジャッジメント/推定有罪、恋のドッグファイト、原始のマン、青春の輝き、風と共に去る20ドル!?、グローリーデイズ/夢見る頃はいつも、きっと忘れない、イン・ザ・アーミー/こちら最前線、異常あり、スカウト、ハードロック・ハイジャック、Dearフレンズ、聖なる狂気、くちづけはタンゴの後で、ジャングル・ジョージ、いつかあなたに逢う夢
彼との出会いはCATVで観たサイコ・スリラーの「聖なる狂気」(監督:フィリップ・リドリー、脚本:フィリップ・リドリー、出演:ヴィゴー・モーテンセン、アシュレイ・ジャッド、1995、アメリカ)で、抑圧された性欲がしだいに狂気に変わっていく内向的な青年を演じていました。
その役柄のせいなのか、その印象ははっきり残っていました。
それ以外は、「ジャングル・ジョージ」(監督:サム・ワイズマン、脚本:ダナ・オルセン、出演:レスリー・マン、トーマス・ヘイドン・チャーチ、1997、アメリカ)の時のインタヴューをチラッと見たことがある程度で、スクリーンでの彼は初めてです。
こんな友人がいたらいいなと思わせる、真面目さと品の良さが感じられとても好感がもてました。
(レオやブラピやキアヌやユアンにはさほど興味がないのですが……)
それに、“スイスブルー”!(だと私は思う)の瞳がと〜ても綺麗!!
レイチェル・ワイズ
主な出演作品:チェーン・リアクション、魅せられて、インディアナポリスの夏/青春の傷痕、輝きの海、アイ
ウォント ユー、スカートの翼ひろげて
お約束通り鼻っ柱の強いインテリ女性の役ですが、ただの“お騒がせお嬢さん”にならなかったのは彼女の存在感だと思います。とてもキュート!
キャサリン・ゼタ・ジョーンズといい彼女といい英国女優の今後の活躍が楽しみです。
◆ ジェリー・ゴールドスミス/音楽
http://www.universal-music.co.jp/classics/non_cla/ost/mammy.htm
主な作品:フロイド/隠された欲望 、いつか見た青い空、砲艦サンパブロ、猿の惑星、パットン大戦車軍団、パピヨン、チャイナタウン、風とライオン、オーメン、ブラジルから来た少年、スター・トレック、ポルターガイスト、アンダー・ファイア、勝利への旅立ち、氷の微笑、L.A.コンフィデンシャル、ムーラン、ザ・グリード、ホーンティング
1950年代から活躍して、現在までと〜てもたくさんの映画音楽を手がけているのでこれはほんの一部です。アカデミー賞ノミネートは数限りなく、1976年の「オーメン」で作曲賞受賞。
「インディ・ジョーンズ」のジョン・ウィリアムズも悪くないですが、CDコレクションに加えるならオリエンタルなこっちの音がいいかな。
このテの映画に厳密な時代考証は無意味ですが、ある程度の時代背景やモチーフを探ってみるのも興味深いだろうと、“「ハムナプトラ」を鑑賞した歴史に詳しい映画好きの人“をあちこち探してみましたがなかなかめぐり会えませんね。
エジプトに興味がある人が観るとどういう感想をもつのだろう、面白い話が聞けるのでは?と思うのですが……。
「The Mummy 2」もあるようです。フレイザーは出るかな?
〈写真リンク〉
*1 http://wwwfs.acs.i.kyoto-u.ac.jp/~syuji/photo/paris98/71.jpg
*2 http://wwwfs.acs.i.kyoto-u.ac.jp/~syuji/photo/paris98/74.jpg
*3 http://www.tokyo-np.co.jp/toku/new_world/nw990401/nw9904017.htm
*4 http://member.nifty.ne.jp/piroko/TRAVEL/TAIWAN/Kokyu1.JPG
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