映画雑文 | ||
渚にて ON THE BEACH |
監督・製作:スタンリー・クレイマー 原作:ネヴィル・シュート 脚本:ジョン・パクストン/ジェームズ・リー・バレット 出演:グレゴリー・ペック/エヴァ・ガードナー/フレッド・アステア/アンソニー・パーキンス/ドナ・アンダーソン 1959 アメリカ 135分 モノクロ 社会派監督スタンリー・クレイマーの社会派SF。 米ソの核戦争(第三次世界大戦)の勃発後、地球の北半球は放射能に汚染され、南半球でわずかに生きのびる人々がいた。しかし、彼らのもとへもいつか必ず“あれ”はやってくる、と「博士の異常な愛情−以下略」(1964)の“その後”のような内容で、忍び寄る放射能汚染の恐怖と不安を描いています。 かなりオールスターキャスト。 アンソニー・パーキンスが「サイコ」(1960)とは全く違う好青年で登場するのにびっくり。 「サイコ」の出演がなかったら青春スター路線だったかもしれませんね、彼。 これはよかった〜。 放射能汚染による人類壊滅を描いていますが、残酷なシーンを一切使わず、 日常生活のなかで戦争による放射能(核)の恐怖を表現しようとしているところに共感しました。 激情的にならずショッキングな映像にも凝らず、 淡々と、実に淡々とした演出が逆に哀しく、核の恐怖と悲惨さ、むごさがひしと伝わってきました。 「ON THE BEACH」というタイトルが泣けるねぇ。くぅ〜。 すでに放射能に汚染されているアメリカの都市を映し出す画面。核戦争後の廃墟とはどのようなものかと期待していたら、なんと街は何一つ壊れてはいない。 ただいつもと違うのは、人影が全くないこと。どこまでもどこまでも無人の街・・・。 う〜ん、これがかなり衝撃的。 アメリカ人(戦勝国)の監督なのに面白いアプローチのしかただなぁ、と思いました。 戦争のリアリティって、血みどろの戦闘シーンをどれだけ巧く映像化しても、それは違うと思うのね。 「(核戦争は)科学者のせい?」 「いや、ソ連と共存していく選択の余地はあったはずだ。」というやりとり。 米ソ冷戦のまっ最中にこういう映画を撮って、こんな台詞を喋らせる。 これこそリアルですよね。 CGを駆使していくつも人間の首を吹き飛ばした戦争映画より、はるかに価値がある。 この作品も含め、「手錠のまゝの脱獄」(1958)や「招かれざる客」(1967)など、その時代や社会を象徴的に捉えながら、そこに登場する人々は“大衆そのもの(あなた自身)”だという視点で描かれていることを見失いたくない。 ラストカットは、広場に掲げられた「まだ時間はある・・・」と書いた大段幕。 でもそこにはもう誰もいないの・・・。 確実に“その時”はやってきたのだ。 |