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映画雑文
シン・レッド・ライン(THE THIN RED LINE)
監督・脚本■テレンス・マリック
製作■ロバート・マイケル・ゲイスラー/グラント・ヒル/ジョン・ロバデュー
製作総指揮■ジョージ・スティーヴンス・Jr
原作■ジェームズ・ジョーンズ
撮影■ジョン・トール
美術■ジャック・フィスク
音楽■ハンス・ジマー
出演■ショーン・ペン/ジム・カヴィーゼル/エイドリアン・ブロディ/ベン・チャップリン/ジョン・キューザック/イライアス・コティーズ/ニック・ノルティ
1998、アメリカ



 「やっぱり止めればよかった」
戦争映画を観た後はいつもそう思います。
特に,アメリカ人の作った戦争映画は観るもんじゃない,と思っているのに…
テレンス・マリック(監督)に興味があって…

 映像は涙が出るほど美しかったです。実際,冒頭から涙ポロポロでした。

 1962年(!)のジェームズ・ジョーンズの原作『The Thin Red Line』に感銘を受けて,監督自ら脚本も書いたということですが,詩的な兵士達のモノローグは心に残るものがありました。
 映像も含めてこの詩的な部分がテレンス・マリックらしさなのか,それとも原作によるものなのか?

 「この悪が一体どこからくるのか,この世のどこから」



 以前TVのニュース番組で,「なぜ人を殺すのが悪いことなのか」と発言した高校生がいて,鋭い質問あるいは愚問だと,その後も何かと話題になっていましたが,この映画を観ていてふとその事を思い出しました。

 世の中では映画やフィクションに頼らなくても現実に戦闘があり,大地震があり,テロや銃の乱射が繰り返され,本物の屍を映像や写真でいくらでも見ることができ,また,ほんの少しの想像力と好奇心があればコソボやルワンダ,東チモールでの実際の出来事を知る手がかりはいつでも身近にあります。

 血に染まった顔,瞬きをしない瞳,互い違いに曲がりくねる手足…

 それらを見た時に少なくとも何か感じるものがあるとしたら,悲しいとか,怖いとか,かわいそうとか…。
それが「なぜ人を殺すのが悪いことなのか」への答えになるのかもしれないと思うのです。

 生まれてくる命への喜びや去って逝く命への悲しみの意味を,考えるだけでなく,言葉にするだけでなく,感じるだけでは足りないでしょうか。



 「The Thin Red Line」
 生と死の,あるいは正気と狂気のわずかな細い境界線。

 「死体には慣れたが,死の恐怖には慣れない」

 映画の全編を通して「恐怖」が語られていたけれど,それは死刑を宣告された囚人の持つ死への恐怖に似て,キューブリックが「フルメタル・ジャケット」で表現した,戦争がもたらす狂気の恐怖とは質的に異なるような気がしました。

 死体に慣れることが狂気なのか,死の恐怖に苛まれることが狂気なのか…

 原作が書かれた頃は,この恐怖や狂気を人類が克服する未来への期待があったのかもしれませんが,今この時期を考えると,とても空々しい感じを拭えませんでした。

 この映画から感じたのはその空々しさと,「痛い」と言っているのに「そんなこと無いだろう」と踏み続ける足を踏む側の論理です。

 戦争は軍人だけが恐怖や死に直面しているのではなく,非戦闘員の国民全ての日常が巻き込まれるのだということを描いて欲しいものです。
誤爆(?)…これが一番空々しかったりして…
ベトナム反戦意識は負けたというフラストレーションの表れだったでしょうか。



 部隊の部下を無駄死にさせたくないと命令に背く隊長や,命懸けでモルヒネを届ける曹長の様な人がきっと,原爆投下はやむを得なかった,何万の兵士の命が救われたと言うのかもしれないと思うと,今まで観た戦争映画は一体何だったんだろうという気がしました。


 


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