希望


君は風になれるよ。
草の上にごろんと横になっていた少年は、流れる雲を目で追いながら、呟いた。
とても自然で、流れるような言葉に、少女は膝を抱えたまま、こくんと頷いた。
諦めかけた夢が、少年の言葉で、自分の前に一歩、戻ってきたような気がした。
風になれる。
励ましだろうか?……それとも……願い?
君なら大丈夫。なれるよ。
気休め?……それとも。
「信じてごらんよ。自分の力を」
動けなくなった足を投げ出しながら、少年は微笑んだ。空に向かって。
「風。なれたらいいね」
なれるよ。きっと。
頬に触れる風に包まれる。触れることはできないそれに、私はなれるのだろうか。
でも、私には足がある。歩くことのできる足が。大地を踏みしめることのできる足が。
細い細い足を手のひらでさすりながら、少女も微笑んだ。
ふっきれたのか、快晴の空のようなすっきりした笑顔を浮かべる。 俯きがちだった顔をあげ、少女は眩しげに建物の向こうに溶けていく太陽を見上げる。
「風に、なるよ」
小さな、けれどしっかりした声。さっきまでの不安な色合いを帯びた音は消えていた。
「走るよ」
事故にあい、諦めた夢。失いかけた夢を、この時、確かに少女は細い腕に抱きしめていた。
僕の分まで。
空を見上げる少年の唇が微かに動く。けれどそれは声として、音として発することはなかった。 それでも伝わる心。
半年ぶりの笑顔を、ここにきて初めて浮かべる心からの笑顔を、少女は少年に向ける。
少女は少年に手を伸ばした。
「一緒に走ろう」
夢に向かって。
少年は伸ばされた手をとると、しっかりと握り返した。


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いつ頃書いたのかさっぱり判らないショートショートです。
どういう設定なのか、何を思って書いたのか判らないのですが、せっかく書いてあるのだし、と載せてみました。