キライ、キライ、ダイスキ



うぅ〜、お腹、痛い。
マジ痛い。
発狂しそう。ほんっとーーに痛いんだってばーーっ。

机の上に突っ伏してうなる。
え?英語の授業はどうしたって?
そんなもん、聞いてられるかってんのよ。
目の前には、転がったシャーペンと、今は意味をなさないものに思える、英字が並んだ教科書が広がっている。
いや、そうか。
普段でも意味、分からないわ。
私、苦手なのよ、英語は。そもそも、日本人が英語をどうして話さなきゃならないのよーーーっ!
いいじゃないのよっ。私、一生、日本からは出ないんだからっ!!
だから、こんな不毛なことするのはやめて・・・・。
っていうか、あと、一分。
お願いだから、早くおわってくれーーっ!!
私は、うんたらしゃべっている英語教師の後ろに見える、壁にかかった時計の秒針を睨みつけた。
1秒、2秒、3秒……。

“キーンコーンカーンコーン”

大抵の学校が同じに違いない音が鳴って、私はそっこーに立ち上がった。
英語教師の通称ハトぴょん(ちなみに20代女性)の
「じゃあ、今日はここまで。」
という声も最後まで聞かずに、廊下へと飛び出した。
友人のミクが何か話し掛けてきそうになってたのも、無視する格好になる。
ゴメン、ミクっ!
私はもうダメなのよーーっ!!

本当は、駆け出したいところだけど、走ると余計にひどいことになりそうだったから、ヨロヨロしながら、保健室を目指した。
ちょっと、ソコ、誰よ。私がトイレを目指そうと思った人!
違うわよ、違うわよっ!別に食べ過ぎとかそんなんじゃなくってねーーっ!
………せ、…せ……だから、その、アレなのよ。
私、たまーに、キツイ日があるんだよね。
こういう時は、ほんっとーーに、男に生まれたかったって正直、思う。
だってさ、出産とか、やっぱり女の方がいろいろと大変な気がするんだよね〜。
うぅ、毎月、コレ、あるし。

い、ひたい。

「おぉ!そこに行くのはカナレじゃないか。なぁ〜に、よろよろしてんだよ、お前。とうとうぎっくり腰にでもなったか?あぁ、やっぱりな。お前は常々、ババ臭いと思ってたんだ。やっぱり歳、ごまかしてたんだな〜。」

したり口調でしみじみ言うこの声は……。
私は教室と教室の間の壁に手をついて、嫌な気分で声のした方を振り向くと、案の定、アイツ、がいた。
にっくき、私の天敵!
だーーっ!なんで、こんなさいてーな気分の時に、さいってーなヤツに会うのよっ!
渡り廊下から、体育館シューズ片手に、体操服を着てやってくる長身の男を、私はギッと睨みつけた。
短めの黒髪、少し大きめの目、人をバカにしたような表情を顔に浮かべているのがコイツの特徴だ。
……誰だよ、コイツがちょっと、カッコいいよねーーっ!とか言ってたバカはっ!!
たかがサッカー小僧なだけで、カッコいいとは無縁だってのーーっ!!

「どけ、バカ。」

目の前にまでやってきて、わざわざ私の進行方向をはばむヤツに、私は先ほどの軽口をかるーく受け流して(もちろん、心のメモにはしっかり刻んでる)つめたーい視線を、向けてやった。

「おぉ!今日はいつにもまして強暴だな〜。そんなんじゃ、嫁の貰い手がないぞ!おにーさんは、お前の将来が心配だよ。」

流石に敵も負けていない。
私の冷気にも、全く堪えない。……つーか、コイツの神経は、ふっといワイヤーロープ並なのよ。
それにしても、誰がおにーさんだ。アンタはそもそも私よりも誕生日、遅いだろーがっ!
つーか、あんたに嫁の貰い手を心配してもらいたくないっ!

「うざい。どけろ。アンタに付き合ってるよゆーは私にはないっての。」

これはホント。
今日はバカやってる場合じゃない。そりゃ、いつもはコイツのバカにもちょっと位つきあってやる、心のよゆーってものが私にもあるけど、ダメなのよ。
今日は、ほんっとーーに、ダメなのよーーっ!
保健室が私を呼んでるわーーっ!
って、ことで。
私は天敵たる、西條 貢(さいじょう みつぐ)を手で押しのけた。
あぁ、ヤバイ。なんか、目の前が霞んできた気がする。
もしや、貧血も併発してるかも……。

「って、おい、人を押しのけて、いくなってのっ!話はまだ終わってないだろーーっ!……って、アレ?お前、大丈夫か?」

チッ。敵にまで気づかれてしまった。
西條が咄嗟に私の手を掴んでくる。
私は、その手を振り払った。

「うーるーさーいーーっ!あんたがゴチャゴチャ言ってなきゃ、私は早く目的地につけるのっ!だから、そこからどけっ!」

「なっ、人が親切にも言ってやってるってのに――ッ!!」

ヤツの体をどんと押しのけ、私は保健室への一歩を踏み出そうとして……。

あ、マズイ。

「って、おいっ!!カナレ……藤堂っ!!」

変にうるさい西條の声を聞きながら、私はローカのきったない床が目の前に迫って来るのを見ていた。
あぁ、踏んづけられたガムが伸びて、その上から泥つきスニーカーが上を通ってこびり付いてて汚い……。

「おいっ!!」

大きなバカ西條の声を最後に、私の意識は暗転した。
最後にふわりと鼻を掠めた、柔らかな感触が何かを知らないまま。





で?
パチっと目を覚ましたら、案の定、無機質な白い…というか、所々黄ばんでよく分からない模様のついた天井が、私を待っていた。

あぁ、保健室か……

私は覚えのあるその独特な匂いの漂う室内に、すぐさま保健室という名の教室名が頭に浮かんだ。
思ったよりも冷静だった。冷静に、貧血を起こして倒れたんだろうと推測する。
ついでに、倒れた私を、誰かがここまで連れてきてくれたんだろうっていうのも。どうせ、力のありあまった男性教師の誰かだろう……と、そこまで考えて、私は視線をめぐらせ硬直した。
これまでの私の冷静さを返せと思いくなるくらい。

まて。

これはどういうことなんだ?
ぐるぐると混乱する頭を必死に働かせて考える。
どうして、いるはずもない、考えもつかない、側になんていなくていいっちゅうの!っていうコイツが、あろうことか、私の手を握ってしかも私の枕のすぐ近くに頭を埋めてるんだろう?
あんまり近くにアヤツの頭が近くにあるせいで、コイツの髪の毛1本1本まで良く見える。

う〜わ〜、睫なっがーー。

……………って、そうじゃないだろうがっ!!
いっやーーっ!!なんでなんでなんでなんでそんなことになってるのよーーっ!!
て、て、ててて手をどうにかしろってのーーっ!!
うひゃーーーあっ!!

心の中で悲鳴をあげつつも、少しでも体を動かせば必然的に動くだろう手が、アヤツをおこすのではないかと思って、まともに息すらも出来ない。
あぁ、どうしよう、どうなるんだ、どうするんだ。っていうか、これ、一体全体どうしてなのさ、摩訶不思議さ〜〜っ。

思考はもう、意味をなさない幼稚園レベルすら軽々と越してしまっている(と、思う)。

あぁ、ほんっとーーに、もう、どうすればーーっ!!

「……ぁ?」

私が頭を掻き毟ることも出来ずに悶えてる時だった。
問題のアヤツが身動ぎをしたのは。
思わず、詰めそうになっていた息を更に詰めて、以外に睫が長くて、意外と鼻筋が整っているヤツの顔を見つめてしまう。

「…うぁ?」

アヤツはパチパチと、間近で見つめる私に音が聞こえそうな瞬きをして……そして、何気なくフッと、息をつめて凍り付いていた私を見つめた。
真っ黒な瞳と出会う。

「カナレ。」

寝起きにしては嫌にクリアな声が、まっすぐに私のあだ名を呼ぶ。
だから、あんた、その名前で私のこと呼ぶんじゃないわよっ!
いつも通りに文句を言おうと思った、その時に、私はまた、恐慌状態に陥るしかないものに遭遇した。

「目ぇ覚めたのかよ。…良かったな。」

ふわり。
全面の笑顔で、アヤツが、人の真正面で、笑ったのだ。
それこそ、心底安心したという顔で。さりげなく私の手を握っていた手が外されて、私の頭を、やっぱりふわりと撫でる。

「良かった。」

何の嫌味もないヤツの笑顔に、私は咄嗟に反応できず…、笑顔と同時にドクンと大きく音をたてた心臓の音の意味も、もちろん分からず……。
ただただ、絶句したまま、アイツの行動を目で追った。
ベッドの横にあった丸イスから立ち上げると、アヤツは体操服を着たままの体をうんと大きく伸ばして、大きく欠伸をした。
それから、ポリポリと首筋をかく。

「んじゃまぁ、オレ、行くわ。お前、今日はもう帰れっていうセンセのお達しだからな。ほれ、そこにカバンもあるから、とっとと帰れよ。くれぐれも、他人サマにぶつかって、コウキョウ物の破壊はせんようにな。」

公共物の破壊って……私は歩く凶器か!!
いつもなら、そういう軽口も叩くんだけれど……。
西條貢は、ベッドの上の半ば呆然としている私を振り返って、アヤツにもそんな顔が出来るのか!っていう、ちょっと苦みの入った妙に大人っぽい笑みを浮かべると、踵を返しながら、ひらひらと手をふった。
そのまま、何も言わずに保健室のドアをガラガラと開けて、ローカへと出て行ってしまう。また、ガラガラと閉まるドア。

ぴしゃん

閉まってしまったドアの先を見る事も出来ないのにジッと見つめて……視線をノロノロと動かし、ベッド脇に置かれた低い戸棚の上の自分のカバンを見る。
焦げ茶色の、ミクにもらった訳の分からないキャラクターのキーホルダーがついた、紛れもない自分のカバン。
一体、誰がもって来てくれたんだろう?
お腹はもう、痛くない。

私はようやく肩の力をぬいた。

「……なんだったんだろう、今の。」

それが、私の正直な感想だった。






翌日。私はヘロヘロと学校への道を歩いていた。
おてて繋いで仲良く歩いていく幼稚園児が可愛らしい。

ほんと、可愛らしいなぁ……………ハァ。

意味もなく、溜め息が何度もでる。
昨日は大人しく家に帰って(公共物を破壊するなどという貧血にみまわれることもなく)、ベッドでグルグルと悩んだ。
それは、もちろん、天敵西條貢の信じられない態度についてだった。
特に、笑顔。
満面の笑顔と、最後に向けられた苦い笑み。
あの笑みの意味が、分からない。
どうしたんだ、西條!って、聞いてみたい。
更に私を混乱に陥れたのは、夜、親友のミクからかかってきた電話、だった。


「あ、澪菜花(れなか)?もう大丈夫?…びっくりしたよぉ。倒れたって聞いて。全くもぅ、そこまで我慢しなくてもいいのに。」

掛かってきた電話のミクの呆れの混じった安堵の声に、私はアハハと意味なく笑った。
ちなみに澪菜花とは私の名前。西條の言うカナレとは、そのまま私の名前を反対に読んだもの。
何というか、このありえないキラビヤカ(?)な名前なせいで、色々からかわれたことのある私は、小さな時にレナカってへ〜ん、反対から読んだ方がよっぽど名前らしいんじゃないのーーっ。と、言われたことがある。
今はもう、そんなこと言う子どもっぽいヤツなどいるはずもないが、そのことを聞きつけたらしいバカ西條だけが、私のことをそう呼びだした。

私の名前を反対から読んだカナレ、と。

ほんっと、子どもっぽい男っ!!

「あ、そうそう、カバンちゃんと持って帰ったよね?私、もって行ったんだけど…。」
「あぁ、うん。そっか、あれ、ミクがもって来てくれたんだ。サンキュー。もって帰ってるよ。」
「そっか。良かった。」

ミクが電話を掛けてきてくれたのは、そのことが心配だったからでもあったらしい。
確かにまぁ、お財布入ってるし、当然の気遣いっていえば気遣いだけど、ミクらしいことだ。
と、そういえばミクがカバンを持って来てくれたんなら、アイツにも会ったんだろうか?
考えてみれば、アイツ、人の寝顔をずっと眺めてたんだろうか?あろうことか、人の手を握ってまで。……握って……。
そこまで考えて、私はまた、なにやら頬が熱くなるのを感じた。
そう、アイツは何で人の手を握ってたりしたんだろう?
天敵なのに……目覚めた私に心底ホッとした顔を見せて。

西條……訳分かんないヤツ。

ポツリ、呟いたら、電話の向こうでミクが、「え?」と聞き返してきた。
慌てて、何でもないというと、少しおかしそうなミクが、そう言えばと、口を開いた。
少し悪戯めいたミクの柔らかい声が私の耳をくすぐる。

「澪菜花を保健室まで連れて行ったの、誰だと思う?」

くすくすという笑い声。
私はミクの質問に、気を失う前に鼻先を掠めた柔らかな感触を思い出していた。
それから、自分の体に硬い床のローカで倒れた割には、どこにも打ち身、擦り傷がないことに今さらながら気づく。
なにやら、私の頭を妙に嫌な予感が走り抜けた。

「西條君なのだよ。そう、澪菜花が嫌いな西條君。澪菜花を慌てた顔して抱き上げて、保健室に連れて行ったって、側にいた人から聞いたよ?」

私は予感が的中して、思わず目を閉じた。
耳元に楽しげなミクの声が響く。

「どう?大っキライな人に運ばれた気分は?っていっても、澪菜花は意識なくて知らなかったんだろうけど。」

……どうもこうも……

「最悪だよ。」

私の一言に、ミクは吹出し、だろうね〜と遠慮なく笑うと、「じゃあ、そろそろ切るね?」と、電話を切った。
ツーツー…と鳴る音を聞きながら、ミクが多分聞き取っただろう最悪とは別の意味で、私は最悪だよと、もう一度呟いた。
天敵に弱った姿を見せたことじゃない。
天敵がとった思いもよらない行動に振り回されている自分の心が最悪だった。

最悪……。
…………………。


「あーーもうっ!ほんっとうに最悪!」

私は睡眠不足の頭を振って、やっぱりヘロヘロと学校への道を歩いていた。
談笑しながら歩いていく、清々しく見える同じ学校の人たちまで恨めしい。

くそーー。それもこれも、ぜぇ〜〜んぶっ、アヤツのせいなのよぉ〜〜っ!!

私はぎゅっとカバンを握りしめた。
まぁ、私を運んでくれたことは、百歩譲ってよしとしよう。
なぜなら、いくらアヤツでも、目の前で倒れようとする女がいれば、よっぽどのことがない限り助けようとすると思うからだ。
だけど……私を保健室に運んでいったアイツが、私が目が覚めた時にいたのはどうしてなのか?
そもそも、カバンを持ってきたミクが見ていないということは、アイツは一度は保健室から姿を消しているはずなのだ。もしかして、またわざわざ来たのだろうか?体操服さえ、着替えずに?授業をほうっぽって?

………。

考えれば考えるだけ、頭が痛くなってくる。

「西條の……バカヤロー。」

「オレが、何だって?」

意識なく呟いた声に返答があって、私はそれこそ、飛び上がるほどビックリした。
ぎょっとして振り返ると、声からして予想できた通りに、そこには案の定……天敵=西條貢。

「お前、なぁ〜に、よれよれ歩いてんの。つーかそれより、学校出てきてヘーキなのかよ?まぁた倒れても今度はしらねーぞぉ。まぁーーったく、こっちの心臓の事も考えてくれよな。」

微妙にチグハグなことを言った西條は、いつものつかみ所のない笑みを浮かべながらも、ツカツカと近づいてくると、半ば呆然としている私の手から、カバンを抜き取った。
お馬鹿なキーホルダーの揺れる、私のカバン。
西條は自分のカバンと私のカバンを一緒にまとめて肩に担ぐと、首をすくめた。
それから、私を放って歩き出す。

「ちょっ、ちょっと、西條!!」

調子の狂う、西條の態度。
昨日からこっち、いつもとズレた態度の西條に振り回されている私。
憎まれ口も簡単には出てきてくれない。

「ちょっと、待ちなさいよっ!人のカバン持ち逃げする気っ!」

流石にそれには、ムッとしたのか……いや、違うわね。呆れた風に西條は振り返って、また、あの見慣れない笑みを浮かべた。

「ちがうっつーの。お前さぁ、人の好意はちゃんと受け取れよ。せっかく持ってやってんだからさ。まぁた、変なとこで倒れたら厄介だろが。早く来いっての。」
「………。」

言い方は、いつもの西條らしい、無遠慮なもの。
けど、何でだろう?その言い方が優しいと思うのは……。
訝しげに見返すと、困ったような笑い顔。少し……照れた顔?
一向に前に進みそうにない私の足に、西條はハァっと溜め息をついたようだった。
私たちの横を素通りしていく通学、通勤の人たち。
中には、歩道の真ん中で突っ立っている私たちを邪魔そうに見ていく人たちもいる。
西條は頭をかいた。

「あの、…さぁ。昨日でバレたかな〜とか思ったんだけど、お前、まだ気づいてないわけ?」

バツの悪そうな顔に、私はハァ?!と首を傾げる。それこそ、意味が分からない。
私の、何言ってんのよアンタ?っていう顔を見て、西條は今度こそ大きく溜め息をついた。

激ニブ。

小さくもらされた声は私には届かない。

「はぁっ?!」

聞き返すと、西條は変に疲れた顔で、口を開いた。

「何だっけ、後藤?…そうだ、後藤深紅(ごとうみく)には、もう気づかれたんだよ。でさ、それじゃあ小学生並でしょう?いい加減ちゃんとした方がいいよって言われたんだよ。ほら、嫌いってことは、それだけ気持ちが相手に傾いてるってことだから、嫌い嫌いも好きのうちってさ。」

はぁ?嫌い嫌いも…好きなうち?小学生並?
……それって何?

「嫌いは、好きになる可能性もあるってこと。」

何故かいきなりそこで、視線をあちこちに飛ばしていた西條が、私の瞳を真っ直ぐ見た。
昨日見た、真っ黒な瞳。

「いい加減、気づけよな。からかったのも、ちょっかいかけたのも、ぜぇ〜んぶ、お前が好きだからってこと。」

…………………ハイ?

目を点にした私を前に、西條は言うだけいうと顔を背け、おもむろに歩き始めた。学校に向かって。
背ける前の顔は、アヤツにしては珍しい、赤いものだった…と、思う。
赤い……照れた、顔?

「あれ?」

あれ、あれあれあれあれ〜〜??

私は自分の頬を押さえた。
多分きっと、西條の顔より負けず劣らず熱い、頬。

ちょっと、待って。
アイツは…今目の前を歩いてるヤツは、私の天敵で……。

「嘘でしょう?」

呟いた声が聞こえたのか、先を行っていた西條が振り返り、怒鳴る。

「早くこいよ、バーカッ!遅刻してもしらねーからなっ!!」

やっぱりその顔は叱られた子どものように、赤い。
私はなにやら混乱しつつも、笑いが込みあがるのを感じた。
それは、昨日からの憂鬱も、寝不足の頭の痛みも吹き飛ばすほどの清々しさだった。
私は笑い出しながら、両腕を振りかぶった。

「バカって何よ、バカってーーッ!!」

不貞腐れた子どものような足取りの西條を追いかけていきながら、私は何か、新しい何かが始まるのを感じていた。
西條と私の、敵と敵同士じゃない、関係が。

好きな子を苛めるしか出来ないなんて、バッカじゃないの!



END



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happy-go-luckyの未来さんからいただきました。
ふふふ。アトガキにあった「捧げる」との言葉に、にやりっと強奪してきちゃいました♪
初々しいです。未来さんの作品は清涼飲料水みたいだなぁといつも思います。爽やかなんです。とっても。
本当にありがとうございます。