私の秋


ふわり。

窓を開けたとたん、爽やかな香りが部屋に入り込んだ。季節感溢れる懐かしい香り に、頬が思わず緩む。
「そうか、もうこんな季節なんだね。」
本当なら思いっきり伸びをしたいけど、今はちょっと止めておこう。
爽やかで、涼やかで、秋らしくない香りなのに秋を感じてしまう金木犀の香り。
どうやら台風がもたらした暖かな空気の陽気のお陰で、一気に咲いたみたい。
毎年この季節になると香るこの花の芳香が、私はとても好きだった。
そういえば、秋って結構好きだな。

まっすぐに伸びた一本茎に、燃えるような緋色の彼岸花。
金色の稲穂。
一面の赤、白、ピンクのコスモス畑。
赤や黄色の山々。

なんだか春以上に綺麗だって思っちゃう。
それに食べ物だっておいしいよね。

ツンツンイガイガの鎧に隠された茶色の栗。
土がついていてもおいしそうに見えるサツマイモ。
キノコだって確か今ごろが一番おいしいはず!

あ、どうしよう。
なんだか食べたくなってきちゃった。もう慣れたけど、本当にお腹がすいていくらで も食べられちゃうんだよね。
思わず本気で困っていると、
「開けたりなんかして、大丈夫か?」
気遣うような声が聞こえた。
「うん、大丈夫。今日はお昼暑かったから、なんかちょうどいいくらいなの。
 それに金木犀が咲いたみたいで、もうちょっとこの香りを楽しみたいんだ。」
そういえばこの人。
昔私が金木犀の香りではしゃいでいたら、「あぁ、これ。トイレの匂いだな。」なん て言ってせっかくの気分をぶち壊しにしてくれたっけ。
見かけ以上に無神経だったりするからな、こいつ。
でもこの人との思い出も秋が多いな。

紅葉した山へドライブ。
コスモス見にドライブ。
温泉へドライブ。

ふふ、ドライブばっかだ。
車好きだモンね。
それに二人きりの密室空間は、私も好きだし。
でももう、二人きりっていうのは難しいのかな?
視線を下に下げると、大きなお腹が見える。これのお陰で今年の夏は本気で死にか かったんだけど、と苦笑が漏れる。
妊娠したら、あんなに体温が上がるだなんて。
涼しい部屋の中にいても汗をかいてばかりで、タオルを手放せなかったな。
だけど、もうおしまい。
あとほんの半月ほどで私の体は、宿った命を外へ送り出す。

これでまた、秋に対して思い入れが一つ増えることになるな。
それがうれしくて、傍らの彼の腕に思いっきりしがみついた。


Fin

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happy-go-luckyの 木崎結子さんからいただきました。実は前サイトの裏サイトのキリ番だったんですが、 「表に置いてもいいですよ」と了承をいただきましたので、お言葉に甘えて表にUPさせていただきました。 結子さん、ありがとうございました〜〜