天使のいたずら

プロローグ

 少年の目の前に一人の少女がいた。
 まだ十歳にも満たないだろう少女は、少年が偶然迷い込んだ広い野原で走り回っていた。楽しそうな笑顔を辺りに振りまきながら。
 少女の周りには、目に見えるのがやっとであるくらいの小さな小さな妖精たちが飛び回っていた。彼女の唇から紡ぎ出される不思議な歌に合わせ、時にはゆったりと時には激しく。まるで少女を守るかのように。
 少女の背中には純白の翼がついていた。太陽の光に照らされ、不思議な光を生み出しながら、眩しく輝いていた。
 少年にとってその光景は夢の中の出来事のように思えた。それほどに少年の瞳に映る光景は幻想的だったのである。
 しばしの間、少年は吸い寄せられるままに視線を少女に注いでいた。
 少女は少年の視線に気づき、ゆっくりと振り向くと、純粋な笑顔を彼に向けた。楽しそうに笑みを浮かべ、少年を野原へと招き入れた。
 あまりにもうっとりする光景に、躊躇することもなく少年は招かれるままに野原に足を踏み入れた。妖精たちとともに遊ぶ少女の後を追いかけるように。
 そして辺りが少女の瞳の色と同じ漆黒の闇に包まれるまで、少年はこの不思議な世界で時を過ごした。
 それが少年と少女の出会いだった。


TOPへ戻る小説TOPへ戻る戻る次へ