向けられた背中。
離れてしまった心。
一歩近づきさえすれば、触れられたはずの背中。
けれど、手を伸ばすことをためらい、結局、行かせてしまった。
今はもう、届かない。
呼ぶ声で振り向かせることも、できない。
縮まらない距離。開くいっぽうの距離に、抱えた慟哭。
けれど、この心さえ、相手は知らない。
ハナレタクナド、ナカッタノニ……。
伸ばしかけた手を何度も引き戻す。
叫びかけた喉を自らで塞ぎ、
真実の思いを光の射さない暗い底に封じ込めて。
ハナレルツモリナド、ナカッタノニ……。
決別を決意したのは、自分。
たとえ相手が自分を憎んだとしても、
その存在を失いたくはなかった。
そうして下した決断で、
自分自身がその存在を失うことになっても。
ウシナイタクナイ……。
だから、離れていく背中を、追わない。
伸ばした手を、気付かれないように降ろし……。
ただ、遠ざかる心を
見送った。