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私記:父の記録

琉大が燃えた日トップへ


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プライス勧告 1956年6月9日、米民政府は米下院軍事委員会で承認されたプライス分科委員会の、軍用地問題に関する勧告の大略(摘要書)を発表した。

 その冒頭には「無期限に必要と知られている財産等に得られる権限は、フィタイトル(永代借地権)か又は現行法規若しくは現行法規の修正の下に得られるかかる最高の権利である。」とあり、ややこしい表現(訳文)であるが、一括払いの方針を再確認するものであった。

 この内容が伝えられるや各所でのあわただしい動きとともに、全島に怒りが燃え広がっていった。
 前年来島したプライス調査団は、米国議会の調査団であるから、現地をみれば何らかの前進がみられるものとの期待に反し、切実な要求としてまとめられた四原則をことごとく踏みにじるものであったからである。

 この日立法院は、緊急に本会議を開いて対応を協議、比嘉行政主席も出席して問題解決のための立法院の協力を要請している。

 勧告の全容は後れて発表されたが、同報告書では「なぜ米軍が沖縄に駐留しているか」ということについて「(1)戦争による勝利(2)対日平和条約(3)平和条約とその付随する取り決めに関連する米国の政策等」をその根拠とし、「我が米軍が沖縄に駐屯している理由は、それがわれわれの世界的規模における防衛上の不可欠の一部をなしているからで」、「琉球列島においてわれわれは政治的支配権をもっており、また同島には挑戦的国家主義運動がないので、われわれは長期にわたって極東―太平洋地域にある沖縄に基地をもつことができる。ここでわれわれが、原子兵器を貯蔵または使用する権利に対して何ら外国政府の制肘を受けることはないのである。」と。

 また「米国が日本から軍隊を引き揚げる場合、軍事基地として沖縄を保持することは、平時にあっても益々重要になってくる。戦争が起こった時は沖縄は現在以上に戦略的に重要になってくる。」、「朝鮮事変の時沖縄は、偵察機、雷作戦に参加した陸海軍機の基地として使用された。」と、自由使用、戦略的価値を強調し、保有期間については「非常に長い期間に亘って沖縄に留まることになるだろう」と述べ、従って「土地問題は暫定的ではない」とし、「土地問題は当座的もしくは近い将来の問題ではなくて、無視することのできない関係にある永久性を含む問題であることは明らかである」と。

 そして、「今や騒々しい小数等は琉球人の要求や複雑きわまる土地問題を政治的に利用している。またこの問題は煽動と混乱を導くための公認された手段を小数党に供している。共産主義者の煽動であろうとなかろうと小数党は、補償に対する米国の如何なる適切かつ寛大な処置にも満足しないのは確かである。何故ならば、満足してしまえば小数党にとって有利な政治的問題がなくなってしまうからである。」と論じている。

 つまり、「小数党の煽動?」をつくり上げそれを口実に、土地をめぐるトラブルを避け安定的に基地を維持するためには地代の一括払いによる「永久借地権」の設定が必要だということである。

 アメリカにとって沖縄の要求は、いささかも配慮に値するものではなく、「琉球における我々の主要な使命は戦略的なものであり、最後的分析におけるこの使命とそれから派生する軍事的必要性が断固として優先する。」と言い放っている。


 6月12日立法院は緊急本会議を開いて日本政府に対し、領土主権国として米国の領土侵害を阻止せよ、という主旨の要請決議を行った。これは、勧告にいう一括払い方式は、「常に個人の司法上の問題として論ぜられる所有権等とは異なる意味をもってくる。すなわち、米国政府の政策は永久的基地の建設である。しかして一括払いはその権利を可能にする。そうなると米国政府は沖縄を強大な軍事基地として永久に使用できるという既成事実をこしらえあげることになる。」これは、「国の主権に違反するものとして許さるべきではない」という見解のもとに、主権国としての日本の介入を求めたものであった。

 各団体は連日あわただしい動きをみせていた。

 6月14日、15日と四者協議会が開かれた。それぞれの内部協議を経ての意見をもち寄った結果、「四原則死守」で一致、あくまでもプライス勧告の「一括買い上げ」及び「新規接収」を阻止する立場を堅持していくことが確認された。そして四者代表は重大決意をもって対米民政府交渉に当ること、もし要求が容れられなければ全員その職を辞する、と次のような決意を表明した。

〈決意書〉 琉球住民はプライス勧告による一括払い並びに新規接収に対しては絶対に承服できない。これを阻止するためにあらゆる手段を尽くすことを決意している。この問題に対する行政府、立法院、市町村長会及び軍用地連合会からなる四者協議会は、最後の重大なる決意をせざるを得ない立場にある。

 米国が本案をあくまでも強行するにおいては、土地問題は益々紛糾して米国の期待する方向とは逆の結果を招来するであろう。

 副長官はこの重大なる決意を直ちに本国政府に伝え、これが事態収拾に最善の努力をすべきである。


 この決意書は6月16日、ムーア副長官に手交された。 


 (注:当時、沖縄統治の最高責任者は琉球列島民政長官(極東軍総司令官)で、副
  長官に琉球軍司令官が任ぜられ、その補佐役に民政官がおかれていた。
  1957年6月、米大統領行政命令で高等弁務官制度が施かれ、ムーア副長官が
  初代の高等弁務官に就任した。)
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