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私記:父の記録

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 学生会(特別委が中心になっていた)では処分の通告を受けた学生の保護者あて激励の手紙を送ることが話合われていた。その激励文の内容の検討、作成にはもちろん対象者ははずされていたので、私どもはかかわっていない。

 帰郷したときはまだ届いていなかったが、後日、「こんなものがきていた」と、父が届けてくれた。

 8月27日付で、たぶん比嘉正幸の筆跡かと思われるその手紙は次のようなものであった。

 琉大学生会から父母あての手紙

 あの悪夢のような学生処分問題があってから、日夜その事について、心を痛めておられるお父さん、お母さんに心から同情すると共に、うだるような今日この頃の暑さにもめげず、日々の勤めにいそしんでおられる姿に敬意を表し、遠くこの首里の地から慰めと激励の握手を送ります。

 遠く郷里にあって、息子さんの身を案じ、ただひたすらに功成り名遂げる暁を信じ、その日を指折り数えて楽しみに待っておられるお父さん、お母さんにとって、今度の事件はあまりにも大きなショックであったに違いありません。

 私達学生にとっても、たしかにそれは大きな衝撃でした。でも私達は、私達が行ったことは、あくまでも正しいと信じておりますし、それだけにこのような成行きに対して決して後悔や悲観はしておりません。

 むしろこのような措置に対して激しい憤りを感ずると共に、今後も一層団結をかたくし、このような不正を絶対に許さないという固い信念にもえて行動する覚悟でおります。

 私達は幼い頃から父や母や又先生に、間違ったことをしてはならないといましめられました。正しい行いをするようにと教わりました。人の為、社会の為になる人間を作る事が教育の目的であることも知っております。それ故にこそ今度の土地問題に際して住み良い郷土を築く為に、人々の生活を守る為に私達は、尊い勉学の時間をさいてまで四原則貫徹の運動に加わったのです。

 お父さん、お母さん、これだけはしっかりと知っていただきたいのです。

 貴方の息子さんは、決して私達とかけ離れた行動をしたのではなく、私達と共に正しい行いをしたということを。

 今度の処分は四原則貫徹運動に対する弾圧であり、処分された学生は、言わばこの運動の最初の犠牲者だといえるわけです。

 私達は、みんなで行った事について、一部の人を犠牲にしてはならないと思っておりますし、又絶対にそうはさせない覚悟で居ります。社会の人々も皆そう言って居ります。正しい事が正しい事として認められない、否、認められてもそれをおし通すことができない、そこに沖縄の不幸があるのです。でも世の心ある人は、私達の正しい行いに対して決して冷淡ではなかったのです。

 だからこそ、だからこそ現実に暖かい友情と力強い激励と援助の手をさしのべているではありませんか。沖縄の人達だけではありません。遠く祖国の同胞より続々と声援が送られつつあるのです。私達は決して孤立してはいないのです。世界の人びとは耳や目をおゝわれてはいないのです。私達はこの事実をはっきりと知り限りない勇気と力強さを覚えます。

 今度の処分問題は、単に処分される学生否、琉大だけの問題ではないということを私達は知らねばなりません。それは学問の自由が守られるか否かという大きな問題です。

 学問とは、せんじつめていえば、ほんとのことを知り、ほんとのことを話す事であるといえるでしょう。この真実というのがどんなに大切であるかは言う迄もありません。

 時の為政者に都合のよい様に、真実がまげて教えられる様になると、どんなになるでしょうか。地球が三角であったり、四角である等と教えられた人々が社会の指導者となったとき、その社会はどうなるでしょう。考えただけでも恐ろしい事です。ですから真実はあくまで真実として教えられなければならないし、その為には時の権力に左右されずに、学問研究は自由でなければならない事になります。学問が自由になされる為には、権力者から干渉を受けず、大学が自分で自分達を治めて行く事が望ましいのです。

 大学内部の問題である学生の処分について、権力で外部から口を入れる事は、既に大学の自治の否定であり、学問の自由の破壊だといわねばなりません。

 世の人達はこの事をよく知っております。

 又、祖国の学友達は、自分達の問題として今度の措置に抗議する為既に立ち上って居ります。

 私達は、学問の自由を守る事が私達のつとめであると信じて居ります。又、そうすることが明るい社会を作ることにもなると信じて居ります。

 正しい事が正しい事として通り、自分達で自分達を治め、他民族から干渉を受けない社会は、どんなにか明るいすばらしい社会でしょう。私達はそんな社会を一日も早く作る様努力しなければならないし、又、私達の努力によってそういう社会が実現することを信じて居ります。

 今沖縄の空には無気味な黒い雲がたれこめております。でもよく見れば、その雲のわれ目にかすかな青空がのぞいて居ります。これは空一面に青空がひろがる事の前兆です。太陽の輝くあの美しく明るい青空のもとで呼吸する事ができる様、私達は貴方の息子さんと、しっかり手をにぎって今後のたたかいを進めます。

 斗いのない所に勝利はありません。行く手には幾多の困難があるでしょう。でも私達にとってそれは物のかずではありません。すばらしい社会を作る為には、いろんな苦痛が伴う事を、私達は歴史を通じて知っているからです。

 お父さん、お母さん、私達は知っております。強く美しい父母の愛の力を。人は、人間としては弱いかもしれません。しかし父親としてそして母親としては強いのです。しっかり息子さんをはげまして下さい。

 私達も共にがんばります。

   1956年8月27日 琉大学生会
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