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ある知人から電話が入りました。
「伊敷さん、糸満観光農園って知っている?」
「もしかして、糸満でお酒を造っているところ?」
「そうそう、伊敷さんは糸満出身だからよくわかるんじゃないの」
「糸満出身だけど、実家にもあまり帰らんし、詳しいことわからないよ」
糸満市と農協などが出資した糸満観光農園という第3セクター。アセロラとパッションフルーツのワインを製造して、いろいろ頑張っているが、民間企業ではないので、どのように販売を展開していったらいいのか模索しているということでした。
さっそく、観光農園の幹部と会ってみました。市の幹部が社長で、農業振興や地域活性化にできないのかとワイン事業を10年近く牽引してきた人でした。まだ、ワイン工場は稼動しておらず、仮事務所で準備している段階でした。
ヒヤリングすると問題点がどんどん出てきましたが、とりあえず当面クリアする課題を3点に絞り込みました。
①ワインラベルデザインが、仮に決定されていたが、「売れない」デザイン。
②商品開発はパッションフルーツとアセロラワインだけ。
③第3セクターなので、周りからの評判が悪かった。
ワインだけでは販売するときに、非常に弱い。アセロラ、パッションフルーツを使った商品開発の仕組みをつくる体制が必要でした。
市内のアセロラ、パッションフルーツを原料にした無添加のワインのレベルはよく、特にパッションフルーツは「売れると」感じました。ワインを試飲した時点で「売れる」可能性は感じていたので、あとは、いかに認知度を上げ、ブランドを構築していけば、と考えました。
その時点で私が提案したのは、南部農林高校と糸満観光農園との商品共同開発プロジェクト。共同開発プロジェクトを提案したとき、観光農園の幹部の反応は「?」でした。「ワインを売るのに、なぜ農林高校と商品共同開発をするのか?」というのが受け止め方だったのではないでしょうか。
観光農園の幹部もピンとこないプロジェクトでしたが、農林高校にとっても同じ状況でした。授業のカリキュラムに取り入れ、企業との共同開発は前例がありませんでした。
当って砕けろで農林高校へ単身乗り込み当時の校長先生へ直談判したところ、話がスムーズに進み快諾していただきました。第三セクターだったから可能だったのです。民間企業であれば難しかったと思います。
高校側から見ると企業との共同開発は、大きな実社会の体験になります。農林高校では、民間の商品開発のプロセスを踏襲した試作品づくり、サンプリング、アンケート調査、テスト販売まで可能な範囲でカリキュラムに取り入れてもらいました。私がアイデアを出した果汁飲料は評判が良く、高校の農業祭では行列が出来るほどでした。
共同開発プロジェクトを農林高校の校長室で記者会見しました。予想したように、この話題にメディアが興味を示しました。テレビ3社、新聞2社が取材にきたのです。当日のテレビ報道でオンエアーされ、翌日の新聞に会見記事が掲載されました。
その後も様々なメディアで取上げられ、なんと全国放送の民放朝番組からもオファーがあり糸満観光農園が全国生中継されたのです。全国放送は凄いモノで番組終了時点から全国から電話での問い合わせが殺到しました。
メディアで報道された日を境に、糸満観光農園に対する見方が徐々に改善されていきました。糸満観光農園と南部農林高校は、リンクして報道される機会が増え、何度も取材を受けました。
糸満観光農園が、マスメディアに登場する機会が増えてくると予想以上の効果が生まれるものです。ワイン施設が正式にオープンしていないのにかかわらず、地元県内の婦人会、老人会の視察が相次いだのです。
第3セクターというマイナスイメージを、逆に利用し、「公共性」という要素を最大限に活用し、農林高校と共同開発プロジェクトを立ち上げることで、糸満観光農園の認知度をあげることに成功したのです。
もう一つ重要な課題が残っていました。ラベルのデザインの変更です。ワインは嗜好品であるため、デザインの良し悪しで、売れ行きが変わります。
デザインといっても、デザイナーの作品ではなく、「売れるデザイン」という視点が大切なのです。つまり、「売れるデザイン」の知識がなければ、ブランディングは失敗に終わってしまいます。
糸満観光農園では、ラベルデザインをすでに検討されていました。採用されていたラベルを一目見たとき正直「う~ん」と唸ってしまいました。典型的な「売れないデザイン」でした。目立つことも大事ですが、それが不快に感じるようなデザインであれば逆に敬遠されてしまいます。バランスが大切であり、売れている商品は、そのバランスがとれています。もちろん、ネーミングやロゴデザインも重要なポイントにもなります。「売れないデザイン」では売れないのです。売れるデザインにしないといけません。
観光農園幹部にデザインを変更したいと切り出しました。デザイン料は決して安くはないのですが、デザイン変更を理解してもらい、ワインデザインで最適だと思う、デザイン会社を私が選択し、デザイン依頼をしたのです。
デザインのオリエンテーションで要求したのは2点です。
①六本木ヒルズの店のテーブルに置いても、似合うデザイン
②沖縄を感じさせる洗練されたデザイン
六本木ヒルズの店でも似合うデザインというのは、本土でも売れるデザイン、ワインにすることを意味しています。
1ヵ月後、何案かラフデザインが上がってきました。その中の一つのデザインを見た瞬間「このデザインは売れる」と思いました。売れると感じたデザインに絞り、更に磨きをかけていきました。
そして、03年11月1日から発売開始。注文が殺到し、11月、12月の2ヵ月で1万5千本を販売したのです。
その後、04年に「沖縄の産業まつり」で県知事賞最優秀賞を受賞しました。